民事信託Q&A

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民事信託活用事例

 下記の事例は、当センターの事例研究会等で検討された事案ですが、いずれも実際に信託を設定した事例ではありません。また、研究会の事例を一部変更しています。実際に信託を設定する際に下記の事例を用いた結果、信託事務の履行等に問題が生じても当センターでは責任を負いかねますので、ご了承ください。

事例1 債務整理後の親子のサポート

1.背景及び相談内容

 乙は、「嫌われたくない」という気持ちが強く、知人や職場同僚からの誘いを断れず、全員分の飲食代を奢らされてしまうことが頻繁にあった。この飲食代工面のため、消費者金融やヤミ金などからの借入れを繰り返し、過去5回専門家に債務整理を依頼していた。

 現在、乙には多額の預金等も借金もなく、父甲が乙の給与を管理することとして毎週2万円を渡している。しかし、甲の妻はすでに死亡しており、甲はこの先、自らの財産管理も、乙の監督等も難しいと感じていることから、最近移行型任意後見契約を締結した。

 乙は、浪費癖と金銭管理ができないことは自覚しているが、他の精神的な疾患はうかがわれず、成年後見制度(保佐・補助)には該当しないと考えられる。

 甲の相続人は乙のみで、甲の財産には居住用不動産と預金がある。また、乙の財産は、給与による収入以外不動産等はない。乙の親族には、甲や乙が信頼する従弟の丙がおり、乙のことは丙に任せたいと考えている。

2.スキーム

〇信託目的      「甲と乙の生活安定のための財産管理」

○委託者        父甲

〇受益者        父甲及び乙(甲死亡後は、乙が単独の受益者)

○受託者        従弟の丙

○信託財産       甲の居住用不動産及び甲の預金等による金銭

○受益者代理人(場合によっては信託監督人)  司法書士等(Ⅹ)

○信託期間       甲及び乙(受益者両名)が死亡するまで

○残余財産の帰属    丙

債務整理後の親子のサポート

3.注意点等

・労働基準法第24条による賃金直接払いが原則。例外として、本人の使者として受け取る
 場合は認められているが、信託における受託者は使者ではないため、受託者の信託口口座
 への振込みは不可。

・甲乙ともに、移行型任意後見契約及び信託財産から除外される財産についての遺言作成が
 必要。

事例2 マンションの換価分割相続の円滑化

1.背景及び相談内容

 被相続人E女(72歳)は、賃貸住宅(マンションの一室)と預貯金を残して亡くなったが、配偶者及び子ども共になく、両親(直系尊属)はすでに他界しているが、5人の兄弟がいる。

 相談者は、E女の長兄(84歳、甲1)、次兄(78歳、甲2)、三兄(74歳、甲3)、弟(70歳、甲4)の4名で、姉(82歳、甲5)は遠隔地に居住しているため、来所されなかった。

  相談者の話によると、5人の兄弟の一致した意見として、マンションについては現在の賃貸住宅の入居者の退去を待って、退去後にリフォームを行ってから売却し、その換価金(=売却代金)を含む被相続人の相続資産を全て均等に配分することを希望している。

  しかし、兄弟5人の共有状態では、資金調達やリフォーム工事契約や売却等の手間が大変なため、様々な事務手続きを最も若い弟一人(甲4)に任せたいとも考えている。

2.スキーム

〇信託目的   「甲1~5共有マンションの管理及び処分」

○委託者     E女の兄弟(甲1~5)5名

○受託者     若い弟一人(甲4)

○受益者     E女の兄弟(甲1~5)5名及びその相続人

○信託財産    甲1~5の共有マンション一室、金銭

○受益者代理人  司法書士等(X)

○受益権     当初、賃貸収入や金銭から、リフォーム等に必要な額を差引いて均等給付
         マンションの換価後、換価金及び信託財産の残金を全て均等給付

○信託期間    マンションの換価分割が終了するまで

マンションの換価分割相続の円滑化

事例3 震災復興の迅速化

1.背景及び相談内容

 大きな津波災害等を受けた地域については、災害危険区域に指定され、条例による建築制限を行うことにより、地方公共団体が国による財政支援を受けて区域内の宅地等を買い取り、新しい住宅団地を整備し、その結果、被災者は安全な住宅団地に移転することができる(防災集団移転促進事業)。

  しかし、被災した地域では、被災者の死亡・行方不明等により地権者を確定することが難しく、土地の境界の確定も困難になる。また、まちづくりに対する先行が不透明な中、被災者の生活再建も見通しが立たないことから、地権者等は早急に判断することもできない。

 こうした状況の中、地権者等複数の一団の不動産等を信託財産として合同運用することにより、不在者財産管理人や相続人等の個別事情に左右されることなく、円滑かつ速やかな集団移転を実現すると共に、移転後、事業の進捗と共に、時間をかけて自らの受益の内容を選択できる信託を設定したいと考えている。

2.スキーム

〇信託目的 「被災地権者甲1~10及び不在者Ⅹらの土地等管理及び生活安定防災のため
       の住宅団地移転」

○委託者   被災者(甲1~10)(地権者=被災地の所有者及び借地権者)及び不在者
       財産管理人(甲Ⅹら)
       なお、不在者の土地等を信託の対象とするときは、不在者財産管理人を組織
       化した不在者財産管理人機構(仮)も考えられる

○受託者   専門家や地権者等で構成する防災集団移転促進事業公社(仮)

○受益者   地権者(甲1~10及び不在者Ⅹら)

○信託財産  地権者の有する土地等

○信託期間  長期(意思凍結機能により、相続等が開始されても運用の継続が可能)

○残余財産の帰属  被災者(甲1~10+不在者Ⅹら)及びその相続人等

震災復興の迅速化

事例4 高齢者の起業サポート

1.背景及び相談内容

 依頼者(甲)は既に高齢独身で歩行に多少困難があるものの、判断能力はある。配偶者と子どもは他界し、兄弟姉妹もない。甲は、判断能力が落ちていくことに不安を感じ、司法書士(X)と見守り契約・財産管理契約・任意後見契約を締結している。

 甲は、最近介護事業に関心を持つようになり、自ら利用する介護サービスの事業主(50 歳、丙)から話を聞くうちに、甲自身の資産を活用して介護関係事業を展開してもらえないかと考えるようになった。

 一方、デイサービス事業主も、同サービス事業所の隣接地土地所有者から隣地を介護サービス事業に貸してもよいとの申し出があったことから、介護付有料老人ホームの開設を検討している。

 このような状況の中、甲は事業主に対して介護付有料老人ホームの共同経営を提案したいと考えている。

2.スキーム

〇信託目的   「甲の生活安定及び甲の社会福祉事業支援のための財産管理」

○委託者     高齢の依頼者(甲)

○受託者     甲及び専門家が役員となる一般社団法人乙

○受益者     甲

○信託財産    甲の預金等による金銭

○信託監督人   司法書士等(X)(甲の後見人を兼ねる)

○信託期間    甲が死亡するまで

○残余財産の帰属 介護サービスの事業主(丙)

高齢者の起業サポート

事例5 商店街における複数店舗のマネジメントの一元化

1.背景及び相談内容

 地方のある駅前商店街では空き店舗が目立ち始め、高齢の所有者自らが店を経営しているものもあれば、テナント貸ししているものもあり、さらには店主が健康を害して空き店舗になったものもある。商店街組合も事実上、機能していない。今後、空き店舗の所有者に相続が開始し、複数相続人による準共有状態のまま放置され、あるいは所有者と連絡がとれず、所有者不明になり空き店舗である状態が持続する可能性が高いとの危機感がある。この商店街の近隣は良好な住宅地で、駅近くの好立地であることから、店舗構成等を適切に管理することで、商店街再生の可能性が十分にあると思われる。

 この商店街の将来を危ぶむ5名の店舗オーナーは、結束することで、商店街を盛り返したいと考えている。相談した経営コンサルタントからは、5店舗施設を一体的に運営し、大規模修繕を行い、あるいは集客力のある店舗を誘致する等の取り組みを行いたいとの提案があった。

2.スキーム

〇信託目的 「甲1~5の有する区分所有建物(5店舗施設)の一括管理のための財産管理」

○委託者   商店街の店舗オーナー5名(甲1~5)

○受託者   甲1~5及び専門家を役員とする一般社団法人(乙)

○受益者   甲1~5及びその相続人等

○信託財産  甲1~5の有する区分所有建物(5店舗施設)及び金銭

○信託期間  20年間

○残余財産の帰属  甲1~5及びその相続人等

商店街における複数店舗のマネジメントの一元化

事例6 賃貸不動産の将来への備えと孫への確実な承継

1.背景及び相談内容

 高齢な賃貸不動産オーナー甲は、過去に一度脳梗塞で倒れたこともあり、現在は賃貸不動産管理を娘の乙に任せ、移行型任意後見契約も結んでいるが、賃貸不動産の所有権移転は相続のタイミングでよいと考えている。

 賃貸不動産はやや老朽化してきたものの、立地は好条件に恵まれていることから、早々に建替えをすれば末永く賃貸不動産事業を継続できると思われる。将来は、建替えた賃貸不動産を乙の長男(丙2)へ確実に承継したいが、甲が高齢であるために、銀行からの資金の借り入れが難航するものと思われる。

 娘の乙も丙2への承継には賛成であり、丙2も、今の職業と賃貸不動産経営は両立できるという感触を得ており、前向きである。

2.スキーム

〇信託目的 「甲の有する賃貸不動産の管理、建替え及び承継のための財産管理」

○委託者   高齢な賃貸不動産オーナー(甲)

○受託者   甲の娘(乙)、後継受託者は乙の夫

○受益者   当初受益者…甲、第二受益者…甲の妻(丙1)、甲の娘(乙)

○信託財産  賃貸不動産及び金銭(担保能力を考慮した財産)

○信託期間  甲、丙1及び乙の受益者三名が死亡するまで

○残余財産の帰属  乙の子(甲の孫)(丙2)

賃貸不動産の将来への備えと孫への確実な承継

事例7 担保付不動産の資産承継

1.背景及び相談内容

 アパート所有者(75歳、甲)は、30年前に銀行から融資を受けて甲所有土地にアパートを建築し、その際、土地と建物には抵当権が設定された。

  甲には、妻(丙1)、長男(乙)及び長女(丙2)がいる。長男と長女はあまり仲がよくなく、遺産分割協議は難航することが予想される。

  現在、残債務は500万円程度になっており、一方、金銭財産は2,500万円を保有しているが、相続税の支払い等を考えると一括返済はしないほうが良いと税理士からアドバイスされている。

 甲は3ヶ月前に脳疾患で倒れ入院し、幸い一命が取り留めたものの、さらに体調の悪化が進めば、判断能力を失う可能性もある。老朽化したアパートの建替えも検討しており、今後は、長男に任せたいと考えている。       

(注)(1)長男と長女の仲がよくない中で相続税納税対策も含めて信託を考えるのは相当慎重
     に対処しなければならない。

    (2)担保付不動産の所有者を変更等するには、抵当権を設定した金融機関の承諾が必
     要になるため、信託契約締結前に、金融機関より“所有権の信託的譲渡による移転
     及び受託者としての債務の免責的引受け”(重畳的債務引受けは権利関係が複雑に
     なり、また税務上の処理も難しい。さらに、受益権の質権設定では相続手続きが
     煩雑)の承諾を得ておく必要がある。承諾を得ないで所有者を変更すると「期限
     の利益喪失事由」となり、金融機関より一括返済を求められる可能性がある。

2.スキーム

〇信託目的  「甲の有する賃貸不動産の管理、承継のための財産管理」

○委託者    アパート所有者(甲)

○受託者    甲の長男(乙)、受託者乙が甲の信託財産に係る債務を引受ける

○受益者/受益権   甲/賃貸収入や金銭から、返済等に必要な額を差引いて給付

○信託財産   甲の賃貸不動産及び金銭(担保能力を考慮した財産)

○信託期間   甲が死亡するまで

○残余財産の帰属  乙(甲死亡後の所有者を明確にして、金融機関の同意を得やすくする)

担保付不動産の資産承継